レンタルサーバーの利用方法として、メールの一斉送信をされる方も多いです。具体的にはメルマガやメーリングリスト、あるいは会員やユーザーへの一斉送信(同報メール)などです。
ただし、こうした大量のメール送信を考えている場合には、レンタルサーバー選びについてとくに注意が必要です。というのも、不正利用(スパム行為)の排除、あるいはサーバーへの負荷が高くなりやすいなどの観点から、様々な制限がかかりやすいためです。
ここではメールの一斉送信に適したレンタルサーバーについて、選ぶ際のポイントと具体的なおすすめサービスを紹介します。
チェックポイントは大きく3つ
選ぶ上で重視すべきポイントは、大きく分けて3つあります。
- メーリングリスト(またはメールマガジン)の作成数および登録上限
- メール送信数の制限
- メールの到達率を上げるための機能(SPF/DKIM等)
まず1つ目については、メーリングリスト(ML)が幾つまで作成できるのか、またその各リストあたり何人までユーザーを登録できるのかという上限です。とくに登録上限は重要で、もし送信対象が800人いるのに登録が500件までの場合、リストを2つに分けて送るなどの手間が必要になってしまいます。
次にメール自体の送信制限についてです。たとえば「1時間あたりの送信数は300件まで」のように制限されている場合があります。なお時間あたりの制限とは必ずしも決まっておらず、10分単位や1日単位で上限が決まっている場合もあります。
最後に到達率についてです。いくらメールをたくさん送ることができても、それが相手にきちんと届かなければ意味がありません。送信ドメイン認証(SPF/DKIM等)と呼ばれる技術を用いることで、迷惑メールでないことを証明し、ひいては到達率を上げることができます。
補足1.メールマガジン機能について
レンタルサーバーによっては、メールマガジン機能とメーリングリスト機能が分けられていない場合もあります。つまりメーリングリストの機能を流用する(管理者だけが送信できる設定にする)ことでメルマガ送信にも対応する、というパターンです。
補足2.リストとメール送信制限の関係
「メーリングリスト(ML)等の機能を用いての一斉送信にも、メールの送信数制限が適用されるのかどうか」は、レンタルサーバーごとに異なります。
たとえばロリポップ!のライトプランの場合、1時間あたりの送信上限は300件となっていますが、500件登録したMLは問題なく送信できるとのことです(2016年にサポートに問い合わせた時点の回答)。一方でエックスサーバーの場合、MLも通常メールも共通で、1時間あたり1000件という制限が適用されます。
個人向けサービスではエックスサーバーが優秀
じつはレンタルサーバー(共用サーバー)のなかでも、個人向けと法人向けでメール送信に関する傾向には違いがあります。まずは個人用途のものから見ていきます。
各社の代表的なプランについてまとめたものが下記の表になります。
サービス (プラン) | 初期費用 | 月額 | リスト数 | 登録数 | 送信制限 | SPF/DKIM |
---|---|---|---|---|---|---|
エックスサーバー (スタンダード) |
3,240円 | 1,080円 | 10個 | 1,000件 | 1,500/1時間 15,000/1日 |
SPF |
mixhost (スタンダード) |
0円 | 972円 | 無制限 | 無制限 | 1,500/1時間 15,000/1日 |
SPF/DKIM |
ロリポップ! (ライト) |
1,620円 | 270円 | 5個 | 500件 | 300/1時間 3,000/1日 |
– |
さくら (スタンダード) |
1,029円 | 515円 | 15個 | 200件 (推奨) |
– | SPF |
ヘテムル | 2,160円 | 972円 | 15個 | 1,000件 | 1,000/1時間 10,000/1日 |
SPF |
- ※初期費用および月額は年間(12ヶ月)申し込みをした場合の税込金額を記載しています。
- ※SPF/DKIMについては、そのレンタルサーバーのDNSを利用する場合に設定可能かどうかを表しています。
上記データを見ていただくと分かりますが、メール配信で優れているのがmixhostです。
メーリングリスト関連機能が無制限になっている上に、メール自体の送信数も1,500通/1時間と余裕があります。また表では省きましたが上位プランを選べば、最大3,500通/1時間まで上限を緩和することもできます。また(詳しい説明は法人向けの項でしますが)SPFだけでなくDKIMにも対応しているため、到達率にも期待が持てます。
次点でヘテムルです。リスト自体の作成数も15個と多く、さらにリスト当たり1,000件まで登録できるというのはかなり余裕があります。
どちらもレンタルサーバー自体の評価としても悪くありませんが、メルマガ含めて総合的な評価としてはmixhostが一歩前に出ています。個人用途かつメール送信重視で選ぶなら、mixhostを選ぶのが現状では一番おすすめとなっています。
法人向けサービスではCPIがおすすめ
次に法人向けですが、じつは価格は高いにもかかわらず、個人向けよりもリストの登録人数や送信制限がきつくなっています。これはビジネスシーンではサーバーの安定性が重視される傾向があるため、負荷のかかりやすいメール大量送信をより厳しく制限しているためと考えられます。
個人向けと同様に、代表的なサービスとプランをまとめたものが下記になります。
サービス (プラン) | 初期費用 | 月額 | リスト数 | 登録数 | 送信制限 | SPF/DKIM |
---|---|---|---|---|---|---|
シックスコア (S1) |
6,480円 | 1,944円 | × | × | 1,500/1日 | SPF |
WebArena SuiteX (スタンダード) |
0円 | 1,470円 | 50個 | 200件 | 1,000/1時間 ※同時200以下 |
SPF/DKIM |
カゴヤ (S20) |
3,240円 | 1,728円 | 540円/個 | 100件 | – | SPF |
CPI (ACE01) |
0円 | 4,104円 | 無制限 | 1,000件 | – | SPF |
- ※初期費用および月額は年間(12ヶ月)申し込みをした場合の税込金額を記載しています。
- ※WebArena SuiteXはスタンダードプランでクレジットカード払いを選択した場合の金額を記載しています。
- ※SPF/DKIMについては、そのレンタルサーバーのDNSを利用する場合に設定可能かどうかを表しています。
表を見ていただいても分かるように、このなかで頭ひとつ抜けているのがCPIです。リストの作成数が無制限となっているのにくわえて、なにより登録上限が1000件というのは法人系のなかでは破格です。
※念のためサポートに問い合わせたところ、送信数制限そのものはないが、30分で500通程度が目安になるそうです。1000件登録したメルマガを送ることはできるが、2回目の送信には間隔を空けてほしいということでした(2016年時点の問い合わせ回答です)。
しかもCPIは主契約ドメインに関しては専用IPアドレスが割り振られるので、誤判定されるリスクも少ないです(詳しい理由は後述)。
CPIの月額は他社の2倍以上になりますが、価格に見合うだけの高品質なサービスを提供していることがうかがえます。
またリストの登録数そのものは200件と少ないのですが、WebArenaSuiteXではDKIMも設定可能です。迷惑メールでないことを証明するための技術である送信元ドメイン認証はIPアドレスをりよするSPFという機能が普及していますが、DKIMは電子署名で認証を行います。SPFと併用することで信頼度が上がり、メールの到達率がより高くなる可能性があります。
SuiteXは1時間あたりの送信制限も1000件(2016年時点の確認)と緩いので、リストを複数に分けて送信するなどの手間をとってもいいのなら、かなり有力な候補となります。
さらに大量のメールをより確実に配信するには
レンタルサーバー(共用サーバー)利用の限界
ここまでメール配信に強いレンタルサーバーを見てきましたが、共用サーバーである以上、どうしても幾つかの点で限界が出てきます。
ひとつには、サーバーに同居している他ユーザーへの影響があるためです。大量にメールを送信することでサーバーに負荷がかかることで、他のユーザーの運用に支障が出てくる可能性もあります。そのため(かりに前述の表で許容されている数値内であっても)状況によっては送信中止を求められる可能性もあります。
もうひとつの問題点はメールの到達率です。現在多くのプロバイダ(ISP)等で導入されている迷惑メールフィルタには、IPアドレスのブラックリストを参照する機能があります。よって、(自分は適切なメールしか送っていなくても)同居ユーザーがスパム行為を行っていた場合、そのサーバーのIPアドレスがブラックリストに載ってしまいます。結果として、自分のメールまで迷惑メール判定される危険があります。
同居ユーザー数が多くなりやすい格安レンタルサーバーを避ける等である程度は対処できますが、根本的なリスクがなくなることはありません。
※法人向けの欄で紹介したCPIに関しては、主契約のドメインについては専用IPアドレスが割り振られるので(サーバー負荷の問題は別として)IPアドレスのリスクは解消されています。
VPSまたは専用サーバーの利用
解決策の一つ目は、VPS(仮想専用サーバー)または専用サーバーを利用することです。VPS等ではユーザーがメーリングリストのソフト自体を自由に導入・設定できます。そのため大量のメールアドレスをリストに登録できます。
また共用と異なり、IPアドレスもユーザーごとに個別で割り振られます。他ユーザーとIPアドレスが重複しないため、(自分がスパム行為を行わない限りは)ブラックリストに登録される危険もありません。
ただしVPSであればサーバー運用に関する知識が必要になってきます。専用サーバーであれば管理をおまかせできるマネージドタイプもありますが、かわりに料金が数千円~数万円と非常に高額になってしまいます。
メール配信サービスの利用
またこのほかに、レンタルサーバーとは別にメール配信サービスを利用する方法もあります。メルマガASPなどと呼ばれることもありますが、大量のメール配信専門のサービスです。
じつは管理人も昔(10年以上前)、仕事で1000人強のユーザーにメールを一斉配信しなければならないことがありました。当時は知識も乏しく、またレンタルサーバーのスペックや回線も厳しい時代だったため、手作業でリストを細かく分けて時間を置いて配信して、しかも不達が多いなど苦労を強いられました。
しかしその後、メール配信サービスの存在を知って利用したところ、一度に数千人に送れる上に到達率も上がりました。また一定回数エラーになったメールアドレスの自動削除などの豊富な機能があり、日々の運用がものすごく楽になりました。
ただ当時に比べるとレンタルサーバーのメール配信機能も向上しており、そこまで大規模な配信でなければ、専用サービスの必要性は下がってきていると思います。月額にしてもサーバーとは別に安いものでも2,000円近くかかってしまうので、予算と目的に応じて利用されることをおすすめします。